香り・味わい・余韻の捉え方 — テイスティングの基本と言葉
鉄観音を「おいしい」で終わらせず、香り・味わい・余韻を言葉にする中国茶テイスティングの基本語彙と、見る・嗅ぐ・含む・飲み込むという再現できる手順を整理します。
鉄観音を一口飲んで「おいしい」とは言えても、その先を言葉にしようとすると詰まってしまう——中国茶を淹れ始めた人の多くが、同じところでつまずきます。香りは強いのか穏やかなのか、甘さは最初から来るのか後から来るのか。言葉の引き出しがないと、淹れ方を変えて飲み比べても、何がどう変わったのかに気づけません。
この記事では、中国茶のテイスティングで使われる基本語彙を、香り・味わい・余韻の3段階に分けて整理します。あわせて、毎回同じ順番で意識を向けるための簡単な手順も紹介します。特別な道具も資格も要らず、急須か蓋碗(がいわん)があれば今日から練習できます。
中国茶のテイスティングは、①香り(乾いた茶葉・淹れた直後・飲んだ後という三段階の香り)、②味わい(苦味・渋味・甘味・コクという4つの軸)、③余韻(回甘(かいかん)・喉韻(こういん)・生津(せいしん)という中国茶で重視される感覚)の3段階に分けて言葉にすると、再現性のある観察ができます。見る・嗅ぐ・含む・飲み込むという4段階を毎回同じ順番でたどることで、淹れ方の違いに気づきやすくなります。もっとも感じ方には個人差があり、他人の表現と一致しないこと自体は誤りではありません。
香りを捉える言葉 — 乾いた茶葉・淹れた直後・飲んだ後
香りは一度きりのものではなく、少なくとも3つの場面で変化します。まず乾いた茶葉そのものの香り(乾茶香)。次に湯を注いだ直後、蓋碗の蓋の裏や茶壷の口から立ちのぼる香り。そして飲み込んだあと、鼻の奥に抜けていく香りです※3。同じ鉄観音でも、この3つの香りが同じ方向を向いているとは限りません。乾いた茶葉は花のような香りなのに、淹れた直後は火入れの香ばしさが先に立つ、ということもよくあります。
この3段階を意識するだけで、「香りが良い」の中身がぐっと具体的になります。まずは乾いた茶葉を手のひらに取り、軽く息を吹きかけて香りを立たせてから嗅ぐところから始めてください。
味わいを捉える言葉 — 苦味・渋味・甘味・コク
味わいは、苦味・渋味・甘味・コク(厚み)という4つの軸で捉えると整理しやすくなります。苦味と渋味は別の感覚です。苦味は舌の上に感じる味そのもの、渋味はタンニン類による、舌や頬の内側が引き締まるような感触を指します。甘味は口に含んだ瞬間から感じることもあれば、後から立ち上がることもあります。コクは、茶湯が口の中でどれだけ「厚み」や「密度」を感じさせるかという要素です。
一方で、これらの軸は独立していません。渋味が強いと甘味が隠れて感じにくくなり、逆に湯温を少し下げるだけで渋味が和らぎ、甘味が前に出てくることもあります。味わいの言葉は、単体の評価というより、バランスを説明するための道具だと考えてください。
余韻を捉える言葉 — 回甘・喉韻・生津
中国茶のテイスティングで特に重視されるのが、飲み込んだあとに続く感覚です。回甘(かいかん)は、飲み込んだあとに口の中や喉の奥から戻ってくるように感じる甘さを指します※1。似た言葉に喉韻(こういん)があり、こちらは甘さに限らず、香りや余韻が喉に残る感覚全体を指すことが多い言葉です※2。もうひとつ、生津(せいしん)は、飲んだあとに自然と唾液がわいてくるような感覚を指します。
ただし、回甘をどの程度強く感じるか、どのくらい持続すると感じるかには、はっきりとした個人差があります。同じ茶を同じように淹れても「回甘が長く続く」と感じる人と「あまり感じない」と感じる人がいて、それ自体は舌の良し悪しの問題ではありません。回甘を含めた余韻の語彙は、他人と比較するためというより、自分自身の中で「前回より強い/弱い」を比べるための物差しとして使うほうが実用的です。
実践:4段階で味わう手順
語彙を覚えても、毎回バラバラな順番で意識を向けていては、比較になりません。以下の4段階を、淹れるたびに同じ順番でたどってみてください。
1. 見る
乾いた茶葉の色や形、そして淹れたあとの茶湯の色と透明度を見ます。濁りがないか、色の濃淡はどうかを一言メモしておくと、あとで比較しやすくなります。
2. 嗅ぐ
湯を注いだ直後、蓋碗の蓋の裏や茶壷の口の香りを嗅ぎます。次に、少し冷めてから同じ場所の香りをもう一度嗅ぎ、変化があるかを確かめます。
3. 含む
茶湯を口に含み、舌の広い面積に行き渡らせるように、数秒ほど口の中で転がします。すぐに飲み込まず、苦味・渋味・甘味・コクのどれが最初に立つかを意識してください。
4. 飲み込んだあと
飲み込んでから10〜20秒ほど時間をおき、回甘があるか、喉のあたりに何か感覚が残るかを確かめます。香りが鼻の奥に抜けるかどうかもここで意識します。
つまずきやすい点
よくあるつまずきは、聞きかじった凝った表現を無理に使おうとすることです。ワインのテイスティング用語をそのまま借りても、実感が伴わなければ言葉が上滑りします。まずは苦味・渋味・甘味・コク・回甘という基本語彙だけで、自分の感覚を素直に言葉にすることを優先してください。
もう一つは、比較対象を持たずに一杯だけで判断してしまうことです。同じ茶を淹れ方を変えて飲み比べたり、時間を置いて再度飲んだりしないと、語彙は身につきにくいものです。比較の実践は、次に紹介する練習記事で具体的に扱います。
次に読む
ここで整理した語彙は、実際に飲み比べて使ってみることで初めて自分のものになります。家庭でできる中国茶のテイスティング練習をまとめた記事では、同じ茶を2通りの淹れ方で比べる練習を具体的な手順で紹介しています。
味わいの違いは、淹れ方の3つの基本要素によっても大きく変わります。湯温・茶葉と湯の比率・浸出時間の基本を扱った記事もあわせて読むと、テイスティングと淹れ方が地続きであることが分かります。
参考文献
関連する記事
TeaGuanyin Academy
会員登録で、コースの詳細とニュースレターを受け取る
無料の記事だけでも日々の一杯に役立つ内容を目指していますが、会員登録いただくと、 コースの詳しい内容と、新しい淹れ方ガイド・更新情報のニュースレターをお届けします。 登録は無料です。メールアドレスは配信目的のみに使用し、第三者へ提供することはありません。